ジャニヲタに〜②
続きです!なっがいね〜!
④真ん中の女 山田
凡庸な顔と凡庸な頭脳を擁し、絵に描いたように凡庸な生活を手に入れてきた。
特に自分の意思を持たない凡庸な女の子は、男にも女にも好まれた。男の賛辞はだいたい「一緒にいると落ち着く」
そういう雰囲気の女である。凡庸という言葉どおり流されるままに生きている。だって私の精神はおそらくこの世に生きていないから。
山田は中学の時から大恋愛に溺れていた。
それはディセンバーズに所属するタレント、スコーピオンズ(通称スコップ)の松平くん。
「十二歳から三十歳まで、他の男と付き合おうが結婚しようが子どもを産もうが、私の心の中にはずっと松平君が住んでいた。松平君以外の男を好きになることなど、一生ないと思っていた。他の人を好きになるのは、私が現実世界に戻ってきたときだけだと、思っていた。」
しかしあることをきっかけに、何故だかすっと十八年の恋が終わり、松平くんと決別する(この突然の決別がまたわかる〜〜)
そしてスコップの行けなかったライブdvdを見て「ああ、この場所にいたかった」と思いながらそれでも食い入るように映像を観ていたら(この気持ちもわかる〜〜)、バックダンサーのひとりに、昔の松平君と似た踊り方をした少年を見つける。
「松平君はいまでこそお笑い路線のアイドルになってしまっているが、もともと私が好きになったころは、無口で、ダンスがやたら上手なちょっととんがった美しい少年だった。
そのころの松平君に、纏う空気がそっくりだった。
気が付けば、松平君ではなくその少年の姿ばかりを追っていた」
滅多に画面に映らないので何度も巻き戻し、画面に映っている時間を書き留めて「スコップの新しいDVDの再生時間〜に映っている少年が誰なのか教えてほしい」と教えろヤホーに書き込む(この流れもすごいわかる〜〜)
彼女が目を奪われたのは「ジル様」こと「皐月ジルベール」くん。
美しい容姿で教祖のように一部のファンから崇拝されている男の子だった。
それから山田は画像を検索し、動画を検索し、スコップの記事しか読んでこなかった過去のドル誌のバックナンバーを持ち出して読み漁った。(あるある)
「そのとき皐月ジルベールは十七歳で、雑誌に載っているプロフィールによれば身長162センチ、体重48キロ、好きな食べ物は揚出し豆腐、好みのタイプは「ショートカットで笑顔の可愛い素直な子」だった。
私は翌日肩甲骨の下あたりまであった髪の毛を切った。そして毎日様々な豆腐料理を作り、ダイエットに励んだ。48キロを下回るために。
五年経った現在、皐月ジルベールは二十二歳、身長166センチ、体重52キロ、好きな食べ物は湯豆腐、好きな女の子のタイプは「ストレートのロングヘアで常識のあるミステリアスな美人」に変わっていた。
きっとこの五年のあいだにショートカットで笑顔の可愛い女の子から「素直」という鈍器で殴られたりでもしたのだろう。
もちろん私の現在の髪型はストレートのロングヘアで、日々常識を持つようにしている。美人、という項目だけ無理だ。元がアレなので」
この単純な文章だけでもう分かりすぎてくすくす笑ってしまう。
そしてそんな所謂担降りをしてジル様を好きになった山田のまた他と違うところは、BL小説を読んでいること。
「ここは白雪姫の汁さま総受けサイトです。CPは茸汁神汁多めですが他十一月および十二月も出てきます。
18歳未満の方、例の花の名前、例の数字三文字、例のアルファベット三文字をご存知ない方は今すぐブラウザを閉じてください」
山田夜中に見ているサイトのこの文章を読んだ瞬間、「うわ!でたー!!!」って私もうゲッラゲラ笑いました。
ここまで描くか宮木あや子。
更新された神汁小説を読みながら「最後まで書けよこのクソが!いや、書いてから掲載してください作者さま!」と身悶えする姿がまた最高。
彼女の一番の宝物は皐月ジルベールで、今一番の夢は皐月ジルベールの芸能界での成功。
山田の娘撫子がプチセレブであるが故に軽くいじめれてしまったり、桜井たちと出会ったりしながら「私は夫よりジルさまを愛している、その感覚を隅谷や桜井は自然に受け入れたけれど、普通の人から見れば「浮気よ!」なんて騒ぐかもしれない。普通ってなんだろう?」と思い始める山田。
普通に囚われて生きてきた彼女と、その娘の最後の会話もなんだかとてもチャーミングで好きです。
⑤一番下の女 片岡
物心ついた時からデブでブスだった。なんでこんなブスに産んだの、お母さんのバカ、と泣きながら母親を殴ることも申し訳ないくらい、母親もブスでデブだった。加えて貧乏で父親は酒乱。お金が無いゆえに不潔、極めつけに頭脳もバカで当然運動神経などないという何重苦。あまりにも異質だから、いじめられることさえない。
本編で何度か出てくる、ジャバザハットのような気味の悪い女。それが片岡。五人目に語られるのはそんな彼女の話。
ジャバザハットって.....
そんな片岡の唯一できることが妄想。
もしも美人なら、もしもお金持ちなら、もしもお姫様なら。
容姿が悪い私としてはこの片岡のブス理論がめちゃくちゃに刺さって大好きだったり、片岡が夫になった男の書いた、無駄におっぱいのでかい女の子たちが冴えないオヤジを取り合う小説に対して「端的に言えば原稿用紙のいう夢の小箱につめられたうんこだった」と言い放つのが最高で好きなのですが長くなるので省略。
BL小説家になったけれど掲載を打ち切られてしまい、深い悲しみを抱えながら本屋に立ち寄った片岡はそこで「とってもお金のかかるホログラム箔の押されたラミネート加工の表紙」を目にする。「男爵」というアイドル誌だった(名前がもう最高)
「私の妄想を具現化した少年たちが、そこにはいた。見出しには、「スノーホワイツのスイーツな冬休み」とある。私はしばし、目の潰れそうなまぶしさに見惚れた。こんなに綺麗な男の子たちがこの世に存在するなんて。」
「じっと見つめていたら、その中にひとりだけ、笑顔を見せながらも僅かに暗い翳を纏った子がいることに気づいた。」
あるある〜〜〜!!!!闇を見出しちゃうの、あるある〜〜〜〜!!!
片岡が惹かれたその少年は、マッシュこと「大船眞秀」くん。
そうして片岡はリハビリがてらに、スノーホワイツの少年たちでBL小説を書き始めた。
商業を書いていた頃はボロクソに言われていたが、ここでは「面白かった!早く続きを書いて!」と温かいメールを貰える。
サイトの中だけでは、デブでもブスでも貧乏でもなくただの小説書きとして、そうして承認欲求を満たしてもらえる片岡。貪るようにコメントを読む片岡。
貧乏なためコンサートには行けない。雑誌も何も買えない。そのため片岡は個人ブログのコンサートレポをくまなく巡り、雑誌はじっくりと立ち読みして頭の中にすべてを叩き込み、新しい写真が入荷したという情報を掴んだ日には朝1でバーストに向かって1日中メンバーの写真を眺める。
いわゆる「金出さないヲタク」であるわけだが、今は社会人になってそこそこ買えるようになった私だけれど、若い頃、お金のなかった頃があった身としてはなかなかに胸にくるものがあります。
マッシュが好きすぎて逆にマッシュを受けにできず、愛がこじれて攻めにもできず、今は紛うことなき受け顔であるジルベールくんで小説を書いている片岡(最高)
ご察知の通り、山田が読んでいたサイトの作者が片岡。
「たぶん今の私は、マッシュに逃げているだけだ。
マッシュがいれば幸せ、と自分に言い聞かせることにより、小説の仕事がなくなった事実から目を背けようとしている。」
ああ.....
そんな片岡だが、ある日山田から小説の感想とともに、チケットが余ったので同行しないかという誘いをもらう。
一万円と高額だが、今の日給なら行けなくもない額。しかしデブでブスの自分が知らない人と同行して良いのか。そんな不安を抱えながらも、ついに片岡は初めて生のマッシュに会いに行く。読んでるこっちも既にドキドキ。
日比谷の会場の描写も絶妙に最高です。
髪を切ったマッシュへの感想もとてつもなく最高ですし、舞台上で事故にあった彼らがコールドスリープしてみたいなよく分からない演目内容も「よ!トンチキ舞台〜〜!!わかる〜〜!!!!」っていう感じで最高です。
その中でも大好きな部分を。
「マッシュが歌う。マッシュが踊る。マッシュが演技をする。
いつもは私の頭の中で生きているだけだった神田君やジルさまたちも、今私の目の前で額に汗を浮かべて踊っている。話している。
夢みたいだと思った。
そして、ずっとマッシュを見ていたらどうしようもなく胸が苦しくなった。
あのとき、あの写真の中で笑っていたマッシュに、翳があると勝手に思って縋った。
そういう理想を私は彼に押し付けていた。
でも今、マッシュは光の中で眩しいくらいに輝いている。翳なんてどこにも見当たらない。」
ああ......... 言葉に出来ないけれど多分わかって頂けると思います.....
私も担当に影を見出したくなりがちなオタクで、それでいていつもステージの上の自担の眩しさに涙が出そうになるオタクなので、ああそうだよな、そうなんだよって一人で染み入ってしまったシーンでした。アイドルって眩しい。
そして千秋楽挨拶で、神田君がスノーホワイツの単独コンサートが決まったことを告げ、叫び声に包まれる会場(想像ができすぎてこっちまで鳥肌)
そこで、神田みらいくんが言います。
「このコンサートが成功し、第二弾、第三弾と成功させていければ、僕たちの、そしてファンの皆様の夢は叶えられるかもしれません。
皆様、どうぞ応援よろしくお願いします!絶対に来てください!」
ほぼ同期のINAZUMAはもう三年前にデビューしている。そんな彼らの言う、「夢」。それはもちろん。
はいもう胸が苦しい。
こんなことを言われたら私も会場で大声で行くよお!!と叫んでると思います。
そして、キラキラの、どこにも翳なんてなかったマッシュに向かって、片岡は思う。
「マッシュ。
どうかそのまま、光を浴びつづけて。
私は願う。
そのフカフカの毛皮がついたきらびやかな白い衣装を着続けて、光のあたる道を歩き続けて。
そうしたらあなたを道しるべにして、私も前に進んでゆける。」
この言葉がとてつもなく好きです。
とてつもなく、好きです。
アイドルを見つめるって、こういうことなんだって、心にすとんと落ちてきました。
如何でしょう!
とにかく羅列しましたが、少しでも胸に刺さる人物が見つかったら嬉しいです。
5人の女達を追ったこの作品、最後はその単独コンサートを見たあと、全体的にどこか白っぽくなって(わかる)焼肉をつつく5人の話で終わりを迎えます。
「一つの夢が叶った後は喜びよりも寂しさのほうが心に重く残る」
この言葉の通り、コンサート後の寂しさでしんみりとした空気感がとてつもなくリアルです。
「私だけのものには、ならない。
一万三千人の観客の中の、私は、ひとりだ。」
それぞれの立場で苦しみを抱える彼女達の会話群は必見です。
そして、最後の1ページで、鳥肌がぶわっと立ちます。
この終わり方が私はすごく好きで、未だに鳥肌が立ちます。
ほぼ引用文でしたが、きっと自担のことが好きで仕方がない人ほど刺さると思いますので読んでみてください。
ぜひ、ぜひ.....同じ作者さん他の作品でまたディセンバーズが出てくるものもあるのでそちらもぜひ!!笑
(ちなみに解説にかわいい佐藤勝利くん遭遇レポもついてるよ)
溢れる愛情をたからものに注いでいる方々へ。